10 ヒゲの理髪店 ~最終章~
2003年 01月 29日
人生とはなんであろう。死とはなんであろう。
これは私の、単なる思いつきの日記にほかならない。今夜も戯言にお付き合い願いたい。
あるところに、誰もがプリンスと結婚したいと願う国で、ただ一人、「私はプリンスのヒゲを整える係になりたい」と瞳を輝かす少女がいた。彼女は誰よりもプリンスを好きだったが、奥ゆかしさと純粋さから、出た言葉だった。名をゲーテにならいミニヨンとしよう。
純粋だったから、そうだろう、だって、「結婚したい」という女達は結局は違う男と結婚し、自分の幸せに割りと忠実に生きて行く。
結婚したいと言いながら、みんなプリンスを置き去りにして自分たちの幸せをつかんで行く。本当にいつかプリンスが来るまで、誰も待つ事はしない。だって、そんなこと、有りえないと思えるし、彼は遠い国の、住む世界の違う人・・・、そう考えたら、そこそこの王子さまに幸せを求めてしまうのだ。
もちろん、そこそこの幸せをあざけってはいけない。
この世界はそういう小さな輝きで満ちており、強烈に輝く太陽がたったひとつあるよりも、月や幾千の星が夜空を照らすことの方が大切な時もある。だからこそ人は真っ暗な夜道にも迷うことなく、人生と言う歩みを続けられるのだ。
だが、その少女は違った。ただただ、プリンスを愛し続けるために「ヒゲを整える係」になりたいというのであった。
愛はいつか失うかもしれないが、ヒゲは変らずそこに、生え続けるから。
その純粋さに、その国の人々は彼女を愛した。彼女がかわいくてしかたがなかった。誰もがやがて失う純粋さを、彼女の中に見たのだ。
つづく
by DandP
| 2003-01-29 14:34
| ヒゲの殿下