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100% 嘘八百 ♪ PRINCEを愛するD&Pによる、PRINCEをめぐる妄想の数々


by DandP

フリーダ

フリーダ
当然ですが、ネタばれです。
見に行っちゃったんだもんね。それでもって、当初、この妄想日記ではネタのみを発表し、個人的な生活に基づく日々の雑事は書かないつもりだったのに、感想なんてまた書いちゃうんですわ。


 フリーダ・カーロという作家を好きなのは、たいがい女性であると思う。しかし、苦手な女性もいる。私と一緒にメキシコに行った女は、絵の前でこう言った。
「やっぱり、嫌いだわ、こんな絵」

それは、戸川純が好きか嫌いかとか、まあ、そういう感性に順ずる問題であると思う。「痛い」メンタルヘルス系を受け入れられるかどうか、その辺にかかっているとも思われる。

 だが、しかし。
忘れてはならないのは、彼女がラテンアメリカ、それもメキシコの女だということだ。「サバイビング・ピカソ」という映画、まだ見ていないのだがなんとなく失敗してるんじゃないかなと思うのは、ピカソのある種の奔放さについて、彼がアングロサクソンではなく、ラテン人だということが視野に入ってるように思えないからだ。
同様、フリーダの絵を考える時、ラテンアメリカの地を思わないわけにはいかない。その呪術を。マジックリアリズムの大地を。
 そこには「痛い」系などという可愛らしい情緒を軽く超えた、強い色彩の魔術がある。

 彼女はシュールレアリストではない。
ラテンアメリカ的世界に属した心象風景画家であると、私は思っている。彼女は内なる事実を描いた作家なのだ。だから歴史的事柄と、彼女が見た事柄とはおのずと違ってくるはずだ。映画でも写実的な表現に、コラージュやアニメーションを使った彼女の創作に結びつく映像を上手く絡ませている。が、なんというか、見終わった感想といえば、上手な伝記映画の域を出ないなあ、という感じ。

 ディエゴとの愛を主題とするなら、奔放でありながらも母親に代表される古いカトリック的な価値観を持ち、彼の裏切りに傷つきながらも彼を求める矛盾なんかも深く掘り下げて欲しかった。
また、彼女の画家としての作品世界に重きをおくなら・・・・。
 まあ、伝記に出てくるエピソードを上手に盛り込んで、しかし、せいぜい伝記に出てくる程度なのである。
そう私が思うのは、要するに私がフリーダ・カーロのファンで関連する本もいくつか持っているからであって、映画としてはいいとこなのかもしれない。

 なによりも、怖れていたよりドロドロしてないってとこがよかった。
それが前記した「ラテンアメリカであること」なのである。


 フリーダとの出会いは今から13年位前、ドイツの本屋のディスプレイだ。暗くて寒くて世界中が灰色でオマケに長いドイツの冬、ドイツの田舎町(確か州都のはずだけどさ)のメインストリートにある本屋に、それはあった。そのガラスの向こう側だけ色彩に満ちた別世界で、身体中に釘の刺さったギブスの女や顔だけ人間で矢に射されまくった鹿が、やたら生命力にみなぎって描かれていた。果物を描いた静物画はエロスそのものだった。

 当時見たドイツ現代美術の巡回展のタイトルが「DENKENKUNST」(思考の芸術)と銘打っていたのと真逆だと感じた。キャバレー文化やマックス・エルンストの回顧展、はたまたドイツと言えば表現主義絵画、いろんなものを目にする機会に恵まれたが、それらはどこか「思考力」に強い支配を受けているように思う。

 フリーダの絵画は「魂」で描かれており、それもゼーレやスピリットという「魂」ではなく、「コラソン」であるのだ。コラソンというスペイン語には、極私的偏見であるが、あらかじめ「トリステ悲しみ」が宿っている気がする。それも私から見ると、なんだか趣味でやってるような実は楽しそうな「悲しみ」なのである。


 その悲しみや痛みと、妙にあふれた生命力に圧倒された。


それからずいぶんと時間が経って、メキシコをたずねる機会に恵まれた。
残念ながら、フリーダ・カーロ美術館となっている彼女の家は清掃&修理中で休館していた。が、彼女の夫ディエゴ・リベラを擁護していた女性パトロン(当然関係していたが)の家を改装した美術館で、フリーダの絵をいくつか見ることが出来た。画集とはかなり印象が違い、まずその小ささに驚く。それは身体上の理由から、彼女が小さなキャンバスにしか向かえなかったことと、その絵の緻密さにある。

 しかし、なによりも、彼女の絵が親しい友人にそっと送ったような、ささやかで奥ゆかしい印象をもっていたことに驚く。もっとふてぶてしく自分の感情を叩きつける女だったら、いっそ、楽に絵を見れただろうに。
 強烈でささやかな彼女の世界に、胸をうたれる。



そんでもって、お土産自慢。
 なかなか他のミュージアムショップでは手に入らないであろう物たち。
①フリーダと恋人(誰だかわかんねえんだ、スペイン語わかんねえから)が交わした書簡のレプリカ。彼女が大切に入れておいたケース(紙製)に入っていて、その消印のカスレ、便箋のしみ、キスマークの口紅の油分のにじみまでご丁寧に再現されてるヤツ。とにかくロマンティックでラブリー。
②フリーダちゃん着せ替えブック。絵画の中で彼女が着ている衣装を彼女の紙人形に着せ替えられる。治療のために着けていた石膏のコルセット(ギプスにカラフルな絵が描いてある)まで忠実にある。女の子向けだけあって、少々美化されており、眉はつながってるがヒゲはない。

以上。
by dandp | 2003-08-22 01:59 | 映画の感想