100% 嘘八百 ♪ PRINCEを愛するD&Pによる、PRINCEをめぐる妄想の数々


by DandP

カテゴリ:- メキシコの光 -( 12 )


 部屋に帰っても明かりは点けなかった。荷物は結局トランク一つにまとまり、部屋の中にはもともとあったベッドとソファとクローゼットだけになった。小さな部屋だったが、今はがらんとしている。窓から差し込む街のあかりで充分ことが足りた。
 買って来たタバコを二箱取り出し、後はトランクに詰めるとソファに転がった。ジーンズの後ろポケットに入るほどの小さなラジオ。聞きなれた割れた音で、流行の曲を流している。
 女はタバコに火をつけ、タバコの先から立ち上る細い煙を見ていた。ラジオは曲とDJを変えながら、時間通りに夜を刻んで行く。

 女は泣いていたのだろうか。
それはモノガタリの綴り手である私も知らない。
悲しくはない。ただ、街を出てゆくだけだ。可哀想な人間など誰もいない。ただ、過ぎて行くだけ。けれど、静かに涙を流すくらい許して欲しい。自分を哀れんだりはしないから。

 窓の外が白んだ。出かけねばならない。夜は明けてしまったのだから。ラジオのスイッチを切り、部屋が突然静まり返る。窓を開けて朝の冷たい空気を吸い込んだ。自分の呼吸の音が、やけに大きく聞こえる。
さあ、本当にもう、出かけなければならない。夜はいつか、明けてしまうのだから。
 コートを羽織ってトランクを持つと、最後に小さなラジオをポケットに入れて部屋のドアを開けた。

 いつかもうじき、どこかの街で、このラジオから少年の声を聴くだろう。


 今、彼女はメキシコにいて、シティからだいぶ離れたその街で、興行事の仕事をしている。ずっと身体を見せることを生業としてきたが、もう、自分が人前に出て躍ることはない。興行の旅に出ることもなくなり、やっとひとつ所に落ち着いた。
 昼は暑くて照りつける太陽も、夜明けは幾分か優しく、冷たい空気を輝かせる。彼女は今でも時々、その夜明けの光を見ている。
いろんな街で見てきたその夜明けの光。
彼女はこの土地の風景が一番気に入っている。大昔、太陽を神と崇めただけあって、この土地では毎朝、まったく新しい光が生まれ変わるのだ。
その光を見てなにを思うのかは、誰も知らない。

 身体がずいぶんとふてぶてしくなった今も、彼女は踊り続ける。
観客がひとりもいなくても、舞台の上でなくても、彼女の踊りは終わることはない。

人生を踊り続けろ。
 
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by DandP | 2003-07-10 00:23 | - メキシコの光 -

 少年の答えは女にはよく理解ができなかった。
「天使みたいだったから」
少年はそれだけ言うと、また何もなかったように前を向いて歩いた。
 女は言葉に困って、続けた。
「そうね、あの子は私の天使だったわ。あなたには天使はいるの?」

少年は立ち止まると、女を見た。初めてきちんと視線を合わせたのだ。
少年の目は大きく、まるで相手の向こう側まで見通してしまうように、黒々と光っていた。娘に似ているな、と女は思った。
そして知った。
娘がどれだけ寂しかったのかを。もちろん分かってはいた。だが女の子は、時々面会の終りにぐずりはしたが、気丈に母親を仕事に見送った。だから、女は病室に一人残された娘のことをあまり心配しないでいられたのだ。
少年の瞳の中には、娘と同じ気持ちがあり、それゆえ娘はこの少年を気に入っていたのだろう。

少年は返事はしなかった。

女は静かに続けた、まるで自分に話し掛けるように。
「あなたが愛した人が、あなたの天使になるのよ」
そうだ、あの小さな女の子は、彼女にとって天使なのだ。これからもずっと、大切に愛し続けるから。

結局、2ブロックほど一緒に歩いたのだろうか、大通りの角でふたりは別れた。大した会話はなかったが。

 コーヒーはまだ温かく、紙袋に包んだままふたを開け、街の風景を眺めながらすするにはちょうど良かった。懐かしく感じるのはなぜだろう。たぶんもう、ここには帰ってこない。
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by DandP | 2003-07-09 00:21 | - メキシコの光 -

 人通りの中を追いついたものの、なんと言って声をかけたらいいのか。
だがあの少年に、どうしても伝えなければならないことがあったのだ。

 娘からあの「羽」の一件については聞いていた。本当は嬉しかったのに、まわりに遠慮してそのことが言えなかったのを、あの小さな女の子は悔やんでいた。女はその話を聞いたとき、言葉では残念がりながら、病状のことを思うあまり「余計なことをして・・・」と正直、少年を疎んだ。だが、病院から女の子の荷物を引き払うため絵本を片付けていると、お気に入りの絵本の間に、なにか挿んであるのを見つけた。

小さな小さな白い羽根がひとつ。

娘は本当にうれしかったのだ。たぶん、片付けられてしまう前に隠したのだろう。それを誰にもとがめられない様に、そっと秘密にしていた。母にさえ、見つからないように。

 そのことを少年に伝えなければいけない、と女は思っていた。娘の代わりに、うれしかった事を、お礼を言わなければいけないと思っていた。


 並んで歩くと、その華奢な少年は愛想が悪く、彼女が息せき切って娘のことを話しても大して顔色を変えず前を向いて歩いていた。歩調は彼女と合わせていたから、迷惑そうではなかったが、どうも気前よく娘の思い出話に付き合ってくれるようではなかった。
 仕方なく女も黙って歩いていた。夕暮れの始まる前の脱色した風景。夕日が赤くなる直前には、不思議なことに一度すべての色を失うのだ。朝日のそれとは違った、独特のだるさと寂しさ。この曇り空を一層灰色にする。と、薄汚れたハトが、路地から飛び立った。

そうだ、街で見るハトはみんなあんな風にくすんで灰色をしている。
なのに娘の本にあった羽根は、真っ白でなんの汚れもついていなかった。

いったいどこからどうやって、あんなに羽根を集めたのか?
女は少年にたずねた。
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by DandP | 2003-07-08 00:18 | - メキシコの光 -
     
 死は、たぶん残された者のためにある。
大抵の場合、後からいろんな人間がやってきて、その残された者達に何か言って帰っていく。それらの言葉の多くは、生前にその人が行動してくれたならば、どんなにか感謝されることだろう。だが残念ながら、「ああしたほうがよかった」という人は、必ず事が終わってからやってくる。多分、その人たちは「その死」から、少し遠い位置にいるのだろう。なるほど、遠いだけあって、よく事が見えるらしい。そして遠すぎて、手を差し出しても届かないと思っているようだ。本当に必要なのは、その手助けする手だというのに。まあ、言うだけ言えば彼らは帰って行き、やがては静かに時が過ぎる。

 人が亡くなってからしばらくは、さまざまな手続きのかたわらに、そんな人達の声に翻弄され、忙殺される。その女も、やっと悲しむ暇を見つけた頃には、その冬最後の雪がやんでいた。

 この街を出て行こうと思った。この街にいる理由が、さしてないことに気付いたからだ。彼女の両親は、別々のところで暮らしており、まだ若くそれぞれ自分の人生に忙しい。彼女だって、まだ二十歳になったばかりだ。新しく人生を始める事だってできるのだ。
 友人を頼って、もう少し明るく強い日差しの、西の方に行ってみようと思った。
 そう決心すれば、準備は難しくない。彼女の部屋を眺めてみれば、すぐに分かる。大した家財道具もない。クローゼットの上のスーツケース二個があれば、移動には事足りるだろう。

 部屋を片付け、明日の朝には出発と言う日、街のダイナーへ向かった。夕食にはまだ早いが、なるべく日が沈まないうちに事を済ませてしまいたかった。日が暮れて明かりが灯ってゆくのを見るのは、一人では寂しかったから。
 パサパサしたサンドウィッチをピルスナーで流して食事を終え、雑貨店でタバコを1カートン買う。それからスタンドで暖かいコーヒーを。
 太った女店主がコーヒーを入れている間、通りを女は眺めていた。雪はまだ、通りの日陰に積まれたまま凍っている。だが、アスファルトは乾いて、ほこりっぽい。春が確実にやってくるのだ。人の心に関係なく。

 と、通りの向こうに、女はあの少年を見つけた。
少年とは病院の面会時に一度しか顔を合わせていない。しかし、娘からは何度も聞かされていた。見間違うはずなどない。
女は急かしてコーヒーを紙袋に入れさせると、車を避けながら通りを横切り、追いかけた。

 あの少年に、伝えなければならないことがあったのだ。
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by DandP | 2003-06-29 00:12 | - メキシコの光 -

 その女は、小さな部屋の長椅子に座っていた。待機室と呼ばれるその部屋は、この病院にしては座り心地の悪くない長椅子と、低いテーブルがあり、テーブルの下にしつらえてある棚には、一冊の古い聖書が無造作に置いてあった。だが、この部屋で待つ人は、椅子の座り心地も聖書も、気にとめることはないだろう。大抵は、ただ黙って自分の足元を見つめている。
 女は下を向いて、さっきまでの光景を思い出していた。彼女の娘である小さな女の子が、最後、どんな風だったか。少しも忘れないだろう。小さな身体の震えも、閉じた目の眼球が動いていたことも。
 しかし、なぜだろう、とても静かだ。いや、耳はむしろ、空調のジー―ンと低く唸る音も、ばたばたとあわただしく動く病院スタッフの足音も、クリアすぎるほどクリアに聞こえているというのに、心が恐ろしいほど静かなのだ。

 まるでこの現実から自分だけが切り離されて、浮かんでいる孤島のようだ。波の音は絶えずうるさく聞こえているのに、海は凍った鏡のように静かに止まったままなのだ。

 今、彼女に見えているものは、彼女の靴の先。つま先の革がところどころ、小さくはがれている。ああ、この靴は古かったのだ、と、考えている。
だが、彼女の心が見ているものは、全てが終わってしまった後、娘の身体についていた管が一本一本抜かれていく姿だ。手首や大腿部の点滴、腹腔からの出血を排出する管、導尿の管、鼻から胃に挿入された栄養の管、口から気管に挿入された人工呼吸器の管、胸や腹、そして指先に付けられた幾つものモニターの線。今頃、たぶん看護士たちの手によって、その管は抜かれ、身体は拭き清められているのだろう。

 名前を呼ばれて女が再びICUに入ると、すっかり衣服を整えられた娘の側に案内された。
人工呼吸器の管を固定するためのテープを外されて、久しぶりに見る娘の顔は、口の端が管で傷ついたのか、小さく切れて、かさぶたになっていた。これまでその女の子が受けてきた治療の傷跡とは、比べ物にならない小さなもの。なのに、それが母親の心を震えさせた。
 さっきまで凍ったように静かだった海が、濁流となり女は嗚咽する。
こんな小さな女の子の身体には、口の端のかさぶたのような、小さな傷で充分なのだ。それまでの手術痕は、大きすぎて似つかわしくない。

 全ての管が抜かれた娘を見て、ようやく自分の娘が自分の元へ帰ってきたように感じた。
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by DandP | 2003-06-24 00:10 | - メキシコの光 -
そして、とうとう少年の更生プログラムのボランティア期間は終わった。彼女は帰ってこなかった。
少年は知っていた。あの小さな女の子は、このガラス張りの部屋には、もう、戻ってくる必要がない。

御国に召されたのだから。


 お気付きの方もいると思う。
これは初期のころのお衣装を読み解こうという試みだ。
以前、某dmちゃんが送ってくれたビデオにあった、セクシーな動物のお衣装。なんでこんな衣装を、誰が、と初めは笑って考えていた。
幼い少女と約束したのに、なぜか衣装はあんなになっちゃって・・・、なんて具合に。しかし、考えて行くうちに、少女が、そう、私の空想の中とはいえ、命を失ってしまうのが悲しくなってしまった。あろうことか、こんなオチを考えていた。
 「PRINCE AND THE REVOLUTION LIVE」というワーナーから出てたライヴビデオの「BABY I'M A STAR」の最後、オーディエンスが一列になって舞台の端から退場した後、いったいどんだけ長いワイヤーコードなんだと思わせるプリンスの白いギター。かき鳴らした後、ステージ中央にカメラが戻るのだが、その切り替え時に画面をスポットライトの残像がスジを描いて残るのだが、「おお、これがあの時の女の子の魂で、見に来ていたに違いない、お盆だったりして。」
なーーんていうオチ。

女の子になんの感情移入もしていなければ、なんてことない笑い話だが、その後の何日か、空想の中で女の子と一緒に暮らしていると、その想像はとても悲しいものになってしまい、一時は没ネタとした。だが、次第にモノガタリは私の中で大きくなっていき、外へ出ないわけにはいかなくなった。アタマの外へ。
この女の子が助かる話にしようとも思った。モノガタリは転がり始めていたが、あらがうこともできた。

 しかし、しかし、・・・
出来うることならば、もう少し、私の空想にお付き合い願いたい。
私は一人の女を待たせているのだ。

 彼女は今、一人、メキシコにいて、私によってこのモノガタリが書かれる事を待っているのだ。
彼女のその後のモノガタリを書くことによって、この妄想の締めくくりとしたい。
どうかそれを私に許して欲しい。
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by DandP | 2003-06-23 00:08 | - メキシコの光 -

 衣装ができた、と電話が入ったのは、クリスマス休暇のために仕事を終わらせようと、人々が躍起になるころだった。
少年は自分のとっておきのサプライズのために、衣装を頼んでおいた。残念ながら、あまりお金はない。なけなしのお金で生地代を払ったら、縫い賃など残ってはいなかった。それでも快く衣装作りを頼まれてくれたのは、父親がピアニストとして働くショウパブの、衣装係の女だった。
 彼女とは、行きつけの場所でスロットなどしていると、よく飲みにきているようで顔を合わせた。少年よりはずっと年も上で、成り行きで何度か寝たこともあったが、特別親しいというわけでもなかった。

 ステージ衣装、ということは伝えてあった。だが、電話に呼ばれて部屋を訪ねた少年は、まさか、こんなことになっているとは思いもよらなかった。

セクシーすぎるっ。

確かに生地は少ししか買えなかったから、足りないところもあったかも知れない。だが、出来上がった動物の衣装は、胸元はサスペンダーのように大きく開いて、胸の巻き毛が目立つようになっており、ズボン丈も半ズボンというより微妙なライン・・・。

 いや、けして少年的には悪くなかった。むしろ、この女、よく自分の好みを捕らえていると感心するところだ。
だが・・・・今回のオーディエンスには、あまり向かない類のものであることは、少年も心得ていた。しかし、今さらどうすればいいのだ。せっかく好意で作ってくれたものを、とやかく言うことは出来ない。満面の笑みを浮かべて「ありがとう」を待つ女を、失望させるのも気がひける。かといって、新たに生地を買いなおすお金もない。

 さて、どうしたものか。サプライズの計画さえ、やる気を失ってしまった。せっかくの仲直りのチャンスだったのに、また女の子にあわせる顔がなくなってしまい、一層話し掛けられないことに・・・。
 しかし、早くしないとクリスマスが来てしまう。どうにかしなければ。

 とにかく手持ちの服であとはなんとかアレンジすることにして、新しい曲のコードを確認しながら、病院へ急いだ。

 プレイルームから近い順に各部屋を訪問する形で、歌は始まった。この日は少年がくるのを待てばいいということで、子供達は皆いい子でベットの上にいた。新しくて楽しい動物の歌を、みんなよろこんで聞いた。
 さて、次はいよいよ、あの女の子の部屋だ。あの一件以来、お互いなんとなく目を合わせられずにいた。今日のサプライズのことも、一言もいえなかった。だから、彼女のために作ったこの曲で、仲直りをしたいと思っていた。

 ナースステーションの角をまがったすぐ側にあるのが、彼女のガラス張りの部屋だった。そこで、きっとニコニコしながら待っているはずの彼女に、少年はこの歌をプレゼントしてやるつもりだった。ギターをスタンバイしてナース達の横を過ぎると、少年は足を止めた。少しの間、なにが起きたのか、よくわからなかった。

 ガラスの部屋には、誰もいないのだ。
誰かがいたことを、部屋が忘れてしまったかのように、ベッドもなく、静まり返って天井の明かりも消されていた。

彼女は?
少年がナースに尋ねると、昨日から集中治療室(ICU)に移ったという。
何日か前から、少し息苦しそうで、鼻の下に細い透明なチューブを渡して、酸素を流し始めたのは知っていた。そんなことはこれまでもあった。そのたびに少年は、メガネを鼻の方までズリ下げて彼女の真似をして笑わせた。だから、そんなに大変なこととは思っていなかった。
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by DandP | 2003-06-22 00:05 | - メキシコの光 -
さらに、つづき
 なんとなく疎遠になってしまったのには、もう一つ理由があった。
女の子を喜ばせたくて、簡単な動物の着ぐるみを着てクリスマスコンサートをやろうと思ったのだ。プレイルームを離れて、その日は特別に子供達のベッドを訪問して回れるように、チーフに頼むつもりだった。難しいことではない。実際、クリスマスや復活祭には、ボランティアや支援団体からサンタやウサギがやってきて、子供達にちょっとしたプレゼントを配って歩くものだ。少年もそれに習って、なにか歌を考えていた。

 だが、その動物の衣装を頼んだ相手が悪かった。
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by DandP | 2003-06-13 00:01 | - メキシコの光 -

  その小さな女の子の部屋はガラス張りで、他の子供達のようにプレイルームに出ることはなかった。時々、その細い腕に点滴をしたまま、看護士たちと遊んでいた。頭髪は治療のために抜け落ちたが、瞳は小さな野生の動物のように、好奇心と誇りでキラキラ輝いていた。
  
 リネンを積んだワゴンを押して廊下を通る少年とは、同じような目をしていることに、お互いすぐ気がついた。少年はプレイルームで歌い終わると、そっと彼女のそばに来て、静かに一曲、歌って帰った。
 歌う時間のない時は、廊下を通りざまにいたずらっぽい視線でにらみ合っては笑い合い、少年は白衣のポケットから何かしら投げてよこした。クレヨンのかけらや、きれいな色のろうそくの燃えさし、ビスケットに付いてきた玩具や、知らない国のコイン。どれもこれもガラクタだが、いつも女の子の気分にぴったりだった。
 
 女の子はしばらく出ていない街のことを聞きたがって、それなのに夢はサバンナを走りまわることで、少年とはいろんな動物の言葉でしゃべった。あたかもサバンナの野生の女王のように、空想の中ではどんな動物とも話ができるのだ。
少年はいつか彼女のために、動物の歌を作ってやろうと約束した。

 曇り空が厚く垂れ込め、手を伸ばせばつかめる気がしてくる。雪が降るのだ。
 そんなある日、少年は例のいたずらっぽい目をして、女の子の部屋にやってきた。後ろ手になにかを忍ばせて。
「目を閉じて」
少年は知りたがる女の子を制して、そう言った。女の子が小さい手を両目の上に当てて隠し、それからゆっくりと目を開けると、白い、真っ白い鳥の羽が、雪のようにベッドに舞い降りてきた。窓から外を見るだけの女の子に、少年からのサプライズだった。女の子が喜びの声を上げる間もなく、看護士がなにか大きな声を出しながら病室に入ってきた。

 女の子のガラス張りの部屋は、治療のために免疫力の落ちてきた彼女を守るためのものだった。真っ白といえども、外部から持ち込まれた鳩の羽は、彼女にとっては不潔なもの。少年は部屋から追い出され、彼女のリネンは全て取り替えられ、真っ白な羽は残らず掃き清められた。
 少年はその後、看護士長にこっぴどく叱られ、彼女を喜ばせたかった自分の思いつきが、彼女にとって危険なものだったことを恥じた。女の子も、ベッド周りを片付ける看護士の剣幕にびっくりしたのと、そのことで彼が叱られたことを自分のせいに感じ、二人ともなんとなくギクシャクして、次の日からはどうやって目を合わせていいかわからなくなってしまった。

 そして、少し疎遠になってしまった。
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by DandP | 2003-06-12 23:59 | - メキシコの光 -

 三度目に無免許をとがめられた時、バイクにまたがったまま、少年はぼんやりと向こうの林を眺めていた。落葉樹林の円い葉は色づいた後すでに落ち、針葉樹のとがった先が、晩い秋の曇り空を突き刺していた。
 季節はもうすぐ冬を迎える。雪が、また道を覆ってしまうだろう。そう思いながらうつむくと、アスファルトが少しにじんで見えた。

 病院ボランティアとして少年が派遣されたのは、更生のためのプログラムだった。それは、まあ、少年の爪に挟まった汚れをきれいに洗う程度には役に立つ。衣服を清潔にし手を何度も洗いながら、少年の仕事といえば、簡単な物品の運搬とリネンの整理。だがもうひとつ、一番大切なのは、この大きな小児病院で、長く入院している子供達の時間を埋めてやることだった。
 就学に達した年齢の子供は、ベッドサイドや、移動ができるならば別棟の教室に行き授業を受けたが、それでも退屈する時間はいやというほどある。就学前の幼い子供ならば、なおさらだ。たった一本のギターと簡単な鼻歌でさえ、彼らには宝物。耳が、乾いた土が水を吸い込むように音楽を求めていることを、彼らの前に立った者ならすぐにわかるだろう。一本の弦が空気を震わすのを、どんな気持ちで彼らは待っているかを。

 子供達は少年の仕事が終わり、プレイルームに立て掛けてあるギターを手に取る瞬間を心待ちにしている。
「プリンス」という名前も手伝ってか、子供達はすぐに少年を気に入った。多分、シャイだったからだろう。彼の音楽はけして踏み込むことなく、子供達のとなりにそっと座って、そっと寄り添った。
自由で、うきうきして、わくわくして、そして少し、さみしかった。
だからみんな、いっしょになって歌った。歌いたい歌だったから。

音楽が、時間をもっと大きなもので満たした。



・・・・相変わらず、州法とかなーーーーんも知らずに書いとりますもんね。妄想ですから細かいことはこの際、気にしないでください。
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by DandP | 2003-05-08 23:54 | - メキシコの光 -