100% 嘘八百 ♪ PRINCEを愛するD&Pによる、PRINCEをめぐる妄想の数々


by DandP

メキシコの光  4 「メキシコの光 5」


 部屋に帰っても明かりは点けなかった。荷物は結局トランク一つにまとまり、部屋の中にはもともとあったベッドとソファとクローゼットだけになった。小さな部屋だったが、今はがらんとしている。窓から差し込む街のあかりで充分ことが足りた。
 買って来たタバコを二箱取り出し、後はトランクに詰めるとソファに転がった。ジーンズの後ろポケットに入るほどの小さなラジオ。聞きなれた割れた音で、流行の曲を流している。
 女はタバコに火をつけ、タバコの先から立ち上る細い煙を見ていた。ラジオは曲とDJを変えながら、時間通りに夜を刻んで行く。

 女は泣いていたのだろうか。
それはモノガタリの綴り手である私も知らない。
悲しくはない。ただ、街を出てゆくだけだ。可哀想な人間など誰もいない。ただ、過ぎて行くだけ。けれど、静かに涙を流すくらい許して欲しい。自分を哀れんだりはしないから。

 窓の外が白んだ。出かけねばならない。夜は明けてしまったのだから。ラジオのスイッチを切り、部屋が突然静まり返る。窓を開けて朝の冷たい空気を吸い込んだ。自分の呼吸の音が、やけに大きく聞こえる。
さあ、本当にもう、出かけなければならない。夜はいつか、明けてしまうのだから。
 コートを羽織ってトランクを持つと、最後に小さなラジオをポケットに入れて部屋のドアを開けた。

 いつかもうじき、どこかの街で、このラジオから少年の声を聴くだろう。


 今、彼女はメキシコにいて、シティからだいぶ離れたその街で、興行事の仕事をしている。ずっと身体を見せることを生業としてきたが、もう、自分が人前に出て躍ることはない。興行の旅に出ることもなくなり、やっとひとつ所に落ち着いた。
 昼は暑くて照りつける太陽も、夜明けは幾分か優しく、冷たい空気を輝かせる。彼女は今でも時々、その夜明けの光を見ている。
いろんな街で見てきたその夜明けの光。
彼女はこの土地の風景が一番気に入っている。大昔、太陽を神と崇めただけあって、この土地では毎朝、まったく新しい光が生まれ変わるのだ。
その光を見てなにを思うのかは、誰も知らない。

 身体がずいぶんとふてぶてしくなった今も、彼女は踊り続ける。
観客がひとりもいなくても、舞台の上でなくても、彼女の踊りは終わることはない。

人生を踊り続けろ。
 
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by DandP | 2003-07-10 00:23 | - メキシコの光 -