100% 嘘八百 ♪ PRINCEを愛するD&Pによる、PRINCEをめぐる妄想の数々


by DandP

メキシコの光  4 「メキシコの光 4」


 少年の答えは女にはよく理解ができなかった。
「天使みたいだったから」
少年はそれだけ言うと、また何もなかったように前を向いて歩いた。
 女は言葉に困って、続けた。
「そうね、あの子は私の天使だったわ。あなたには天使はいるの?」

少年は立ち止まると、女を見た。初めてきちんと視線を合わせたのだ。
少年の目は大きく、まるで相手の向こう側まで見通してしまうように、黒々と光っていた。娘に似ているな、と女は思った。
そして知った。
娘がどれだけ寂しかったのかを。もちろん分かってはいた。だが女の子は、時々面会の終りにぐずりはしたが、気丈に母親を仕事に見送った。だから、女は病室に一人残された娘のことをあまり心配しないでいられたのだ。
少年の瞳の中には、娘と同じ気持ちがあり、それゆえ娘はこの少年を気に入っていたのだろう。

少年は返事はしなかった。

女は静かに続けた、まるで自分に話し掛けるように。
「あなたが愛した人が、あなたの天使になるのよ」
そうだ、あの小さな女の子は、彼女にとって天使なのだ。これからもずっと、大切に愛し続けるから。

結局、2ブロックほど一緒に歩いたのだろうか、大通りの角でふたりは別れた。大した会話はなかったが。

 コーヒーはまだ温かく、紙袋に包んだままふたを開け、街の風景を眺めながらすするにはちょうど良かった。懐かしく感じるのはなぜだろう。たぶんもう、ここには帰ってこない。
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by DandP | 2003-07-09 00:21 | - メキシコの光 -