100% 嘘八百 ♪ PRINCEを愛するD&Pによる、PRINCEをめぐる妄想の数々


by DandP

メキシコの光  4 「メキシコの光 3」


 人通りの中を追いついたものの、なんと言って声をかけたらいいのか。
だがあの少年に、どうしても伝えなければならないことがあったのだ。

 娘からあの「羽」の一件については聞いていた。本当は嬉しかったのに、まわりに遠慮してそのことが言えなかったのを、あの小さな女の子は悔やんでいた。女はその話を聞いたとき、言葉では残念がりながら、病状のことを思うあまり「余計なことをして・・・」と正直、少年を疎んだ。だが、病院から女の子の荷物を引き払うため絵本を片付けていると、お気に入りの絵本の間に、なにか挿んであるのを見つけた。

小さな小さな白い羽根がひとつ。

娘は本当にうれしかったのだ。たぶん、片付けられてしまう前に隠したのだろう。それを誰にもとがめられない様に、そっと秘密にしていた。母にさえ、見つからないように。

 そのことを少年に伝えなければいけない、と女は思っていた。娘の代わりに、うれしかった事を、お礼を言わなければいけないと思っていた。


 並んで歩くと、その華奢な少年は愛想が悪く、彼女が息せき切って娘のことを話しても大して顔色を変えず前を向いて歩いていた。歩調は彼女と合わせていたから、迷惑そうではなかったが、どうも気前よく娘の思い出話に付き合ってくれるようではなかった。
 仕方なく女も黙って歩いていた。夕暮れの始まる前の脱色した風景。夕日が赤くなる直前には、不思議なことに一度すべての色を失うのだ。朝日のそれとは違った、独特のだるさと寂しさ。この曇り空を一層灰色にする。と、薄汚れたハトが、路地から飛び立った。

そうだ、街で見るハトはみんなあんな風にくすんで灰色をしている。
なのに娘の本にあった羽根は、真っ白でなんの汚れもついていなかった。

いったいどこからどうやって、あんなに羽根を集めたのか?
女は少年にたずねた。
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by DandP | 2003-07-08 00:18 | - メキシコの光 -